エンゼルケアは「最後の診療」

愛する動物を看取った直後の数十分間は、飼い主にとって心の整理が追いつかない“空白の時間”です。
この瞬間に温かく丁寧なエンゼルケアを示すことは、動物病院にとって“最後の診療”を完結させる行為であり、飼い主のグリーフケアの第一歩にもなります。
看取りの質は病院全体の評価とも直結するため、スタッフ全員で取り組む意義は大きいと言えます。

動物病院だからこそ担える役割

自宅では十分な道具・スペースが確保しづらく、遺体処置の専門知識も限られます。
対して動物病院には医療グレードの衛生環境と、獣医師・愛玩動物看護師が有する解剖学的知見があります。
血液・体液の滲出を防ぎ、姿勢を整え、体表の汚れを落とす―こうした基礎処置を確実に行えるのは医療従事者だけです。
また、動物との思い出や希望を聞き取りながら、その子らしい見送り方を一緒に考えられるのも、動物病院スタッフの重要な役目です。

実践例：その子らしさを大切にした見送りの工夫

エンゼルケアの方法に正解はありません。
大切なのは、飼い主が「この子らしく旅立たせてあげられた」と思えるような工夫をすることです。

• 花やリボンで優しく包む
  顔まわりに小さな花を添えたり、飼い主の好きだった色の布を使ったりするだけで、温かな雰囲気が生まれます。

• 思い出の品をそばに置く
  お気に入りのおもちゃや首輪、小さなブーケなど、想いを込めたものを添えることで、見送りが少しだけ前向きな時間になります。

• 飼い主が声をかけられる空間づくり
  照明を落とし、静かな時間を設けることで、最期にゆっくりと語りかけることができる空間になります。

こうした工夫は、華美である必要はありません。色や配置、想いを込める手間のひとつひとつが、飼い主の心に寄り添う大切な手段となります。病院側がいくつかの選択肢をさりげなく提示することで、飼い主が「どう見送るか」を自分らしく考えるきっかけになります。

動物病院を出たあとのお見送り

病院でのエンゼルケアが終わったあと、飼い主は火葬や埋葬といった「次の段階」を迎えることになります。ここでのサポートも、病院としてできる大切なケアのひとつです。

• 提携している霊園や火葬サービスの案内
  飼い主が戸惑わないように、パンフレットを渡したり、信頼できる業者を紹介したりすることは、実務的にも心情的にも大きな助けになります。

• 移動時の配慮
  遺体を包む布の色や質感、持ち運びのしやすさなども、飼い主の気持ちを和らげる要素になります。保冷材を目立たないように入れるなどの工夫も有効です。

• 一言添える心遣い
  「大切にされていたことが伝わってきました」など、獣医師や愛玩動物看護師からの一言は、飼い主の心を救う力を持ちます。

お別れは寂しいものですが、その時間があたたかいものであれば、悲しみの質は少し変わります。動物病院だからこそできるお見送りの形を、スタッフ全員で考え、実践していきたいものです。

まとめ：すべての最期に、あたたかなケアを

動物の最期のかたちは一つではありません。
闘病の末に穏やかに旅立つ子もいれば、急変や予期せぬ事故で、心の準備ができないまま看取りの瞬間を迎えることもあります。
どのような別れであっても、飼い主の心の中には「もっと何かしてあげたかった」という思いが残るものです。
だからこそ、動物病院で行うエンゼルケアには、大きな意味があります。
ただ処置をするのではなく、表情や姿勢、空間、そして言葉の一つひとつに、やさしさと敬意を込める。
そんな時間が、飼い主にとっての癒やしとなり、悲しみを受けとめる小さな支えになります。

限られた時間や状況のなかでも、できることはあります。
特別な準備がなくても、心のある一手間で、別れの印象は大きく変わります。
すべての最期に、あたたかく寄り添える動物病院であるために――スタッフ一人ひとりが想像力を持ち、ケアのあり方を考えていくことが、これからの医療に求められる姿ではないでしょうか。